75歳以上も「125」が目標に?―高血圧ガイドライン2025年版を読み解く

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こんにちは。鹿野クリニック院長の鹿野です。
朝晩が冷えこむようになり、「最近、血圧が高めなんです」という声をよく聞く季節になりました。
ちょうどこの秋、「高血圧治療ガイドライン2025年版」が発表されました。
外来でも、「血圧、厳しくなったんですよね?」という質問をいただくことが増えています。


ガイドラインとは?

「ガイドライン」とは、医師が診療の際に判断の目安とする“治療の地図”のようなものです。
学会や専門家が、最新の研究結果(エビデンス)をもとに「どんな治療が安全で効果的か」をまとめた指針で、全国の医療現場で共有されています。
必ずしも「全員がその通りにしなければならない」わけではなく、あくまで目安として、患者さん一人ひとりの体調や生活に合わせて柔軟に使われます。

つまり、ガイドラインは「医療の標準」を示す一方で、「個別の最適」を考えるための出発点でもあるのです。


75歳以上の目標血圧が引き下げに

これまでのガイドラインでは、75歳以上の方の家庭血圧の目標値は 135/85mmHg以下 とされていました。
しかし今回の改訂では、125/75mmHg以下 に変更されています(体力や合併症に応じて調整)。

この変更の背景には、次のような研究結果があります。

「75歳以上の高齢者高血圧症患者の薬物療法は、収縮期血圧130mmHg未満を目標とした降圧治療が、それ以上の血圧を目標とした場合に比べ、重篤な副作用を増やさずに心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)を抑制した」

つまり、「下げすぎは危ない」と言われていた高齢者でも、一定の範囲でしっかり下げた方が心臓や血管を守れるという結果が出たのです。

ただし、注意も必要です。
血圧を下げすぎることで「ふらつき」や「転倒」のリスクが高まる方もいます。
「薬を増やしたら、立ち上がるときにクラクラするようになった」と話される方も珍しくありません。

そのため、薬を増やしすぎず、日常生活の中でめまいや倦怠感が出ていないかを確認しながら、無理のない範囲で降圧を進めることが大切です。


腎デナベーション(Renal Denervation)とは?

もう一つの注目トピックが、腎デナベーション です。
これは、薬ではなくカテーテル手術によって血圧を下げる新しい治療法で、特に薬でうまくコントロールできない「難治性高血圧」に対して注目されています。

「デナベーション(denervation)」という言葉の語源を分解すると次の通りです。

  • de-:取り除く、なくす
  • nerve:神経
  • -ation:〜すること(名詞化の語尾)

つまり「de + nerve + ation」で、「神経を取り除くこと」という意味になります。

腎デナベーションでは、腎臓に分布する交感神経をカテーテルで熱凝固し、神経の働きを抑えることで血圧を下げます。腎臓は血圧調節の中枢的な臓器であり、交感神経の興奮が強いと血圧が上がるため、この神経の働きを“弱める”ことで安定した降圧が期待されます。

医学は常に進歩していますね。


将来の展望と私の考え

私自身、この治療を知ったときに「次々に新しい治療法が出てくるんだな」と驚かされました。
薬を飲み続けるのではなく、手術で血圧をコントロールする――
将来はそれが当たり前になるのかもしれませんね。

一方で、治療法の進歩は確かに魅力的ですが、やはり大切なのは「エビデンス(科学的根拠)」と「ナラティブ(患者さんの物語や満足)」の両立。

ガイドラインを根拠としつつ、「薬の副作用はないか」「薬を飲みすぎていないか」など、患者さんにとって真に満足いく治療をこれからも行うのが、家庭医としての役割だと感じています。


まとめ

  • 75歳以上の目標血圧は125/75mmHg以下に見直し
  • 腎デナベーションは新しい選択肢として注目
  • ただし、薬・生活・体調のバランスを見ながら治療方針を決めることが大切

※参考文献:

日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン作成委員会 編

『高血圧治療ガイドライン2025(JSH2025)』

ライフサイエンス出版、2025年

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